アイリスオーヤマと言う会社をご存じでしょうか。生活関連用品の製造、販売の会社です。グループ全体の総売上高は、20年で十倍に増えていまして、約8,000億円あるそうです。特に目を引くのは、家電用品での伸張です。その昔、日本の家電は世界をリードしていましたが、21世紀に入って、凋落の一途を辿って来まして、家電中心メーカーの三洋電機は当時の松下電器に統合され、その後、旧三洋の家電事業は中国企業が買収しました。液晶テレビで一躍注目されていたこれも家電が中心のシヤープも台湾メーカーに買収されました。大手の重電メーカーの一部で家電事業を持っていました東芝、日立も家電事業の縮小を余儀なくされ、ソニー、パナソニックも、一時のブランド力に陰りが見えています。そのような日本家電の凋落を横目に、アイリスオーヤマは日本市場で大幅に売上高を伸ばして来ているのです。家電大手の言い訳は、中国、韓国、台湾メーカーとの大型投資やコスト競争力に敗れたと言うことでしたが、アイリスオーヤマの躍進を見ますと、かつての家電大手の販売戦略が間違っていたのだと言わざるを得ません。彼らは品質が良ければ、売れるのだと言うことで、確かに素晴らしい品質と機能を持った製品を多数開発して来ましたが、そこに間違いがあったのです。
アイリスオーヤマの製品は、徹底的にユーザーニーズに応えることを信条としているようです。製品のアイディアは、全社員が幅広く提案し、特に、家電の使用者としての女性目線をとことん大切にしていると感じられます。それも家電以外に、寝具・インテリア、収納・家具、調理器具・キッチン用品、ホーム用品、ヘルスケア、ペット用品、工具・DIY製品、ガーデン・エクステリアと生活関連製品全般を対象としていますので、普通の人が家庭で営むことに関係するものの大半を取り扱っていることで、単なる家電製品では無く、生活の中に本当に必要な製品として、ユーザーに提供していることが最大の強みなのではないでしょうか。
ジャパン・アズ・ナンバーワンとして、世界最強の製造業を誇った日本は、今、家電などの完成品分野で国際競争力を失って来ましたが、アイリスオーヤマの成功が大きなヒントを示してくれていると思います。つまり、かつての日本の国際競争力の源泉は、高機能の製品を品質よく、低価格で提供し、世界を席巻しました。しかし、低価格と言う点では、中国、台湾、ベトナムなどの新興メーカーにその座を奪われ、新機能を提供する製品は台湾、韓国に、これまでに無かった新しいコンセプトの製品は、アップルなどの欧米メーカーに先んじられて、日本メーカーの苦しい今があるのです。しかし、世界全体に通用する新次元の製品や大量消費の低価格製品では勝ち目は無くとも、ニッチなマーケット、ニッチなニーズにとことん細やかに対応出来る製品を開発することで、まだまだ製品は売れるのではないでしょうか。このような細やかな対応は日本人の器用さが活きてくる部分なのです。確かに、今でも国際競争力のある分野は、高付加価値の素材の分野です。完成品では負けていても、その中に使用されている部品、材料には、日本製品が必須となっていることも多いのです。この分野でも、世界の完成品メーカーのニーズに細やかに応える製品を次々と開発することで、世界をリード出来ているのです。今回のアイリスオーヤマのような対応を、世界のいろいろな市場に応用していけば、完成品分野でも売れる製品は生まれていくものと思います。
政府は、国民の生活を向上し、格差の解消の為に富を分配するには、成長が必要で、そして成長戦略とよく口にしますが、現実味のある戦略を立ててやっているとは思えません。日本の強みをきちんと把握して、具体的な戦略を構築し、それに沿って、可能性のある分野、企業に効果的に支援すべきと思います。そうすれば、日本の成長にはまだまだチャンスがあると思います。
但し、私は成長を待たずとも、富裕層から貧困層への分配は今でも可能だと思っています。富裕層の目を怖がらず、信念を貫くリーダーであれば出来る筈です。