昨年亡くなった元ソ連大統領ゴルバチョフ氏への評価は二分されて来ました。ペレストロイカと言われた変革が進み、その後のソ連崩壊の際の経済的な混乱で、それまではある程度の生活が保証されていた社会主義体制から自由経済に移行したことで、多くの民衆が貧困に苦しんだことで、ゴルバチョフ氏の変革を評価しない人が多数いたものと思います。しかし、これはペレストロイカでそれまでの西側諸国との冷戦状態の雪解け、核軍縮の実現、東欧諸国の民主化、旧東西ドイツの統一、ソ連国内では表現の自由、集会の自由、信教の自由、出国の自由、選択肢のある選挙、複数政党制など、市民の権利と自由が獲得されたことに対する正当な評価とは相反することになってしまったのです。つまり、長期的に見ればロシア国民の自由と民主化に大きな貢献をしたゴルバチョフ氏に対し、民衆が目の前の生活にとらわれたことでこのような評価になったのだと思います。このような間違った評価になったのは、経済的な混乱に対する対策をきちんと出来なかったことが起因していると思われ、非常に残念なことです。このような状況が続いた後、プーチン氏がロシア大統領に就任し、豊富なエネルギー資源を背景に、強権的な介入により経済成長を実現したことにより、多くの国民の支持を獲得することにつながりました。それで、独裁的な強権政治が復活し、ウクライナへの侵略へとつながってしまったのでした。ゴルバチョフ氏の改革は、国民の自由、人権、国際的な協調路線による平和を獲得できるチャンスだったのですが、結局は旧体制への回帰を願う一部の権力者達によって、改革は大きな後退を余儀なくされたのでした。
ゴルバチョフ氏の政治哲学は戦争拒否、軍拡競争の停止、政治にモラルを導入することでした。このような真っ当な思想を持った人が、強権的な社会主義体制下の指導者の中から生まれたことは奇跡と言っていいのではないでしょうか。彼は戦争を政治の手段とすることを認めず、特に核兵器の危険性をよく理解しているひとでした。
人間は愚かなものです。なかなか本当に大事なことが理解できません。それより、目先にあることにとらわれてしまうのです。ロシアの国民を責めることは出来ません。それより、多くの人々に甘い言葉、上手い作り話をして実はおのれの欲望、願望を達成しようとするものがいること、そして、彼はいずれ権力を獲得した段階で鋭い牙をむくことを知り、忘れないようにしたいものです。