多くのひとがなかなか幸せを感じていない世の中になったことを考えるのに、もう少し長いスパンで人類の歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。

 人間は、動物の一種ですから、生物の行動原理から全く切り離せません。生物の基本戦略の目的は、自身が受け継いで来たDNAの保存と改善です。ということは、このミッションを単純に進めるにあたっては(狭い生活空間を前提にした場合)、個人主義、利己主義が当然となるのです。つまり、自分とその子孫の利益だけを考えていれば良かったのです。しかし、いつの進化の過程で備わって来たかは分かりませんが、人間には、知性というものが備わって来ました。知性は、個人単位の利益から、個人の利益をサポートできるグループ単位へと考えが進んで行きました。分かり易い例を示しますと、食糧となるものがあるとしますと、それを自分と家族で独占して、暮らすことが出来れば、こんな幸せなことはありませんが、みんながそういう風に考えると、次に争いとなります。この争いに勝利したものがそれを独占するのですが、いつまでもその食糧が続くとは限りません。そこで新たな食糧を求めて、さらに争いとなります。当初は、個々の力の優劣で決まっていたものが、集団の力で他者に打ち勝つ方が強いということになり、集団という単位が、一族、国家というものを形成して行きます。この過程で、集団の総合力を高めるためには、強いリーダーシップが必要になり、そのリーダーたる人間が頭角を現し、そのリーダー一族、取り巻きが民衆を支配する国家というものが栄えて行きます。20世紀までは、その歴史が繰り返されて来ました。日本でも、江戸時代は、徳川家、それに取り入った大名家、上級武士、豪商、豪農などといった一族が、民衆より強い存在となっていました。賢い権力者は、民衆を家畜のように使い、そこからいろいろなものを搾取していくだけでは、権力を維持できないことを理解していましたので、生かさず殺さずという政策を進めて行きました。民衆にも知恵というものがあります。知恵が高まると不満につながりますが、知恵を殺すようにすると、民衆が生み出す富が増えません。民衆の生産性を上げる為には、民衆にも教育を施して、総合力を高める必要がありますが、知恵が備わると、一部の既得権益を受けている特権階級への不満が高まるというジレンマが起こります。このような政策と民衆の不満の綱引きが続いていく訳です。そこで権力者層が考えたのが、自分たちの体制を維持し、民衆を利用するために都合よい知識を習得させる内容を教育に盛り込むことでした。

 と言うことは権力者層が民衆を利用するために必要な教育というものが、これまでの教育というものでした。つまり、労働生産性を高めるために必要な、知識、技能の習得、現社会体制を肯定するための歴史教育、宗教教育、道徳教育が進められる訳です。身近な例では、江戸時代の、徳川家を頂点とした封建体制、明治から太平洋戦争終戦までの、天皇体制です。戦後、これらの教育は崩壊しました、そして、民主主義を高らかに宣言し、平和な民主的な国家を作り上げられることを目的とは謳っていますが、現在の教育システムは現体制化で権力と富を保有している層の体制を維持するためにしかなっていないような気がします。そのことを隠すために、非体制層から、体制層に努力すれば成れるという道を残していることが、戦前以前とは異なり、民主的、平等主義としている裏付けとしているのです。ということで、教育の機会も公平に存在している、頑張れば、何にでもなれるという体制側の言い訳、逃げ道となっています。しかし、真実は、現教育システムは体制に有能なひとをピックアップする為のものでしかなく、とてもみんなを幸せにするためのものとはなっていません。幼い頃から、競争社会に晒し、一部のエリートと、大多数の歯車となる人を生産することを目的としているのです。だから、個々のひとの特性を引き出し、そのことで、いろいろな職業、社会の役割を担う人達を育てるということにはなっていません。社会には、多くの機能、職業が必要なのですが、問題なのは、その中に貴賤が明らかに存在しています。皆さんも良くお分かりと思いますが、貴(特権階級)とは、体制の頂点を形成する政治家、高級官僚、法職家、経営者、宗教家、医者、一部の芸能関係者、スポーツ関係者などが、多くの富を保有しています。彼らの為に、農業、漁業、工業、商業、サービス業など、国を支える実務を担う大多数の人達は、社会に必要なものを生み出してはいますが、それに伴う富は、特権階級に掬い取られているのが現実です。職業に貴賤なしとは建前でしかないのです。単なる平等主義は、社会の成長、科学の進歩などを無くすことになりますので、私もそれは否定しますが、現体制を維持するための競争社会も大きな問題で、それを支える教育も非常に問題なのです。

投稿者

弱虫語り部

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)