前回、ジャニーズ事務所前社長ジュリー氏が中小企業事業承継特例措置による相続税860億円の免除を受けている件について、見解を述べさせていただきました。
ジュリー氏のように、資金的に問題無くとも、このような優遇措置を受けることによって、資産を守っている富裕層がどれだけいるのか考えて見ますと、日本の税システムは、合法的に富裕層を守るような穴を持っていると考えられなくもないと思いました。
現在でも、政府は一般庶民から少しでも多く税金を徴収する為に、いろいろな策を弄しています。代表的なものは、消費税で貧富の区別なく、物を買えば、必ずその中に税金を含むと言う、究極の広く浅く税金をとりまくると言う技です。個人消費者の立場からしますと、この税金だけは逃れることは出来ないものです。生きて生活している以上、必ず発生し、必ず徴取される税金なのです。
一方、ビジネス活動に関わる税金は申告税で、いろいろと誤魔化しが効くものです。しかし、その中でも、会社に雇用されている立場の従業員は、毎月の給与から天引きされるので、胡麻化しは効きません。つまり、大多数の一般庶民からは徹底的に税金を徴取するのが、政府、官僚のスタンスなのです。一方、雇用している立場の経営層は帳簿を改ざんするなど、脱税の種は山ほどあります。
寧ろ問題にしたいのは、脱税と言う法に触れる行為ではないが、冒頭のジュリー氏の事例のように合法的ですが、法の本来の狙いを逸脱したようなケースで、免税や優遇を受けることが出来るような法の盲点がいろいろと存在していると言うことです。そして、うがった見方をすれば、法律を設計した段階で敢えて盲点、穴を残して制定させているのではないかと言う点です。
政治家というもの、上辺では庶民の為にとか言っていても、大口の票につながる会社、組織、団体を自分の味方につけたいものです。特に大企業へはまだまだ税金を課すことが可能なくらい内部留保と言うお金を抱えていても、いっこうに手を付ける気配はありません。また、それぞれの地域に顔が効く富裕層についても、彼らにいい顔をしてまとまった票を頂きたいと思うのは本音だと思います。しかし、あからさまにはそれらを優遇すると、一般庶民の票が逃げる危険性があります。だから、上辺では、貧富の差も無く厳しく税金を採りたてている態度をとりながら、法の中に、富裕層にしか通れない抜け道を用意して、法律を作るのです。
今回の中小企業事業承継の為の特例措置のようなものです。私が真面目にこの特例措置をその目的に適うように法律化しろと言われれば、この措置を適用されるものへの条件を厳しく、また曖昧さを無くして、定めようとすると思います。現在定められている資格条件は、資本金や従業員数で規定されていますが、本当に一番重要なのは、会社、もしくは相続人たる事業継承者の支払い能力です。だから、相続税が、その企業の財務諸表、相続人の資金力にどのように影響するか明確にしそれを条件にしたいと思います。この法律はある中小企業に対しては非常に意味のあるものですが、その意味のある企業に絞って特例措置をするように設計されるべきです。そうだとしたら、簡単に抜け道となれる資本金、従業員数などを条件にしてはいけないのです。こんなことは、専門家であれば簡単に理解出来るものだと思いますから、それなのに敢えてそのような設計をしているのは、裏にある意味、莫大な資産を有する富裕層への抜け道を潜ましたいと思っているからに違いないと思ってしまいます。
江戸時代のように、一部の特権階級が自分達の資産を増やし易くして、一方、農民は死なない程度に出来るだけ多く年貢をとりたてようとしていたのと、本質的には変わっていないのです。