豊後水道で起こった最大震度6弱の地震発生の後、気象庁の担当官が語ったことが気になりました。この地震は今後想定される南海トラフ地震の発生地域の中で起こったことから、記者から南海トラフ地震との関連を質問されました。これに対しての気象庁の回答は、巨大地震が発生する可能性が急激に高まっているわけではない、その理由が地震の規模だと言うのです。南海トラフ巨大地震の想定震源域の中で地震が起きた場合、気象庁は巨大地震につながるおそれがあるかどうか、専門家による検討を行うことにしていますが、この検討を行う基準は地震のマグニチュードが6.8で、今回の地震はマグニチュード6.6と基準に達していないから検討はやらないとのことでした。
気象庁はこの基準を盾にとって、問題ないと言うのです。そもそもマグニチュード6.8が南海トラフ巨大地震につながる基準としたのは、それほど確固たる証拠があった訳ではなく、ある程度の基準を作っておかないと、いろいろと混乱するからと設定したのだと思います。今回の地震が僅かに基準に届いていませんが、基準そのものの精度が高くないのですから、いろいろな環境、例えば、列島全体に地震が群発している現状を考えてみれば、やはり専門家の検討を正式に進めるべきだと思います。
我々人間が陥り易いのは、数字をいろいろな条件付きで決めたとしても、その数字が独り歩きして、絶対的なものとなってしまうことです。そもそも完全に解き明かされた訳でもない自然現象に関わる数字なのですから、かなり誤差が大きいものだと認識すべきものなのですが、一旦決まると、今回のように、それを自分達の判断基準としてさも当然のように判断や説明に使ってしまうのです。
このような例は多々ありますが、それで大失敗につながったことを忘れてはいけません。東日本大震災のときの原発事故がそれです。福島第一原発の設計において、当時専門家が想定していた地震による津波の高さを基準にしていました。しかし、津波は想定していた高さを遥かに超えて襲って来ました。その為、非常用発電機、その他緊急時の電気供給に関する設備が故障し、原子炉内部や核燃料プールへの注水が出来なくなり、最終的にメルトダウンが起き、水素爆発も発生してしまい、大量の放射性物質の放出へとつながってしまったのでした。
もともと、津波の高さの想定を絶対的な基準ではないと判断していれば、最悪、想定津波高さが外れたときのリスクヘッジとして非常用電源設備などを高所に設置していれば、こんな大事故にならなかったのだと思います。
地震のような自然現象は今の人間の知恵ではほとんど解き明かされてはいません。そのことを大前提として、物事を考えるべきです。つまり、便宜上、ある条件を設定したとしても、常にその想定が外れることを念頭において、行動しないといけないと言うことです。
多分、今回の豊後水道地震について、専門家に意見を聞けば、「マグニチュード6.8の基準は満たしていないかもしれないが、大地震につながる可能性を否定しないで、きちんと検討しましょう。」と言うと思います。それが科学者としての客観的な立場だと思います。
役人や専門外の人間が一旦決められた基準を盾にとって、簡単に判断してしまうことは非常に危険なのです。