テレビ番組の中で、外科手術で使われる特殊な器具を作る職人が減っていることに警鐘を鳴らす内容が報じられていました。医学の進歩の中で、外科手術のあらたな術式がいろいろと開発され、これまで困難であった治療にも、対応出来るようになりつつありますが、それは執刀する医者のアイディアや技だけでは成立しないそうです。その術式にマッチした器具が必要になるのです。それを叶えるのが、特殊な技能を持った職人なのです。

 しかし、昨今、5割以上の人が大学に進学し、多くの人がホワイトカラーと称されるような職業を目指すようになって来て、技能的な職人を目指す人が減少しています。また、職人が働く町工場のような中小企業も経営的な問題から、長期的に人材を育成するのが難しい状況になりつつあります。そういうことで、医学界からも危機感を発することになって来たのです。

 日本の強みは、昔から職人の器用さ、勤勉さに裏打ちされていたことは間違いと思います。伝統技能で手作業によるオーダーメイド的な特殊な製品が作られているのをはじめに、自動車産業、電子産業、精密機械産業のような最先端分野でも、様々な精密加工による部品作り、機械作りが支えているのです。

 どの分野でも、後継者不足は如実に現れていまして、現代の若者の志向を考えますと、益々成り手が減少していくことは間違いないのです。それに歯止めをかける為には、政府や自治体が何らかの策を講じるべきだと思いますが、残念ながら、AIやロボットやITと言った、華々しい先端分野への援助はあるのですが、職人分野にはほとんど手も付けられていないのです。

 その番組では、見習うべきとして、ドイツの現状を示していました。ドイツでは、国を支える職業は大学、大学院を卒業したエリートだけでは無く、物作りを如何に巧みに成し遂げるかも非常に重要だと認識していて、マイスター制度と言うものを制定しています。高い専門技術を持った人材に資格を与え、支援・育成するの為の制度です。マイスターと認定されれば、手当が支給されたり、優遇措置を受けることが出来るそうです。また、技術の継承の為に後輩の指導の役割も担います。マイスターはドクターと同等の権威と名誉を社会から受けることが出来るのです。まさに、受験エリートだけが優遇される日本とは根本的に違います。

 日本もドイツのマイスター制度を見習う動きがありますが、ドイツほどに効果を上げていないのは、両国の教育制度の違いが関係していると思います。ドイツでは、基礎教育を受けた後、9歳の時点で、大学進学を希望するものが進む道と、職業訓練を受ける道に進む、二つの進路に分かれるのです。本人の志向や適性に合わせて、早い段階から進路に従った教育を受けることが出来るのです。

 私は、このブログの中で、日本の教育の問題をいろいろと指摘していますが、一番の問題は、有名大学に進学することを目指した、受験中心主義でこの国の教育が回っていることだと思います。社会に必要とされる機能を担う職業は数多あります。そして、その職業を担うのは、その職業に適性のある人材であるべきです。それなのに、多くの若者が、画一的に、いい大学を目指す為の受験勉強に邁進しているのです。その先に、大企業の幹部や官僚、法律関係者や医者などといった一部の高難易度資格の保有者の道がある訳ですが、誰もがそのような職業に向いている訳ではありません。せっかく、苦しい受験競争に打ち勝ち、そのような職業についても、本来の適性に合っていない場合は、不幸な人生を歩むこともあるのです。

 そういう意味で、ドイツの教育は自身の適性にあった職業を選べるようなシステムとなっており、非常に理に適っていますし、また、日本ではまだまだ実現していないのですが、高度な技能を持った人材を社会的に評価し、どのような分野でも、その道を究めることが重要であることが認められているのです。