先日、NHKテレビで二件のドュキュメント番組を続けてみました。ひとつは太平洋戦争での硫黄島での悲惨な戦いを記録したもので、もうひとつは新型コロナウィルスが日本で最初に見つかったダイヤモンドプリンセス号の横浜港での隔離停泊中での医療チームの物語でした。

 硫黄島で2万人を超える日本兵が無残な最期を迎えたのですが、その悲惨さは筆舌に尽くせないほどのものでした。米軍は圧倒的な戦力で、硫黄島征服を狙って、迎え撃つ日本軍を攻撃して来たのです。この悲劇を生んだ一番の原因は、作戦を決める大本営が、ここでの守備戦に勝ち目が無いと分かっていたのにも関わらず、前線部隊には、絶対死守せよ、そして玉砕も降伏を認めないという命令を出していたことです。日本軍は狭い島の中に、あちこちに張り巡らされたトンネルでつながった基地に潜み、ゲリラ的に攻撃を仕掛けていました。これに米軍も手を焼き、最初は降伏するように勧告を続けていましたが、日本軍はトンネルの入り口から五月雨的に、無謀な突撃を繰り返していました。その様子を見て、米軍は入口から火炎放射器や焼夷弾、ガス弾を投下し、最後には、トンネルの入り口を爆破し、日本兵を生き埋めにするまでになりました。中に閉じ込められた日本兵は水、食料も枯渇し、悲惨な状態に陥ってしまったのです。米兵から見ましたら、勝ち目の無い戦いで、どうして降伏しないのか全く理解出来なかったそうです。一部の兵は降伏をする為にトンネルを出ようとしたのですが、後ろから上官に撃たれたそうです。そのような地獄の状態が続き、多くの日本兵は、地下の中で死んで行きました。硫黄島は現在、日本領として復帰していますが、地下にはまだ1万人以上の遺骨が眠っているそうです。

 大本営はどうしてこのような命令を出したのかと言いますと、太平洋上の小さな島々を守れる戦力はもう日本には残されていないことを知っていて、本土決戦こそ最後の戦いだと決めていたのです。本土にいる国民が一億総兵力となって粉骨砕身するように、硫黄島で日本兵が華々しく散ったことを国民への発揚材料として利用したいと考え、2万人以上の人を犠牲にしたのでした。戦局を正しく判断すれば、早期に降伏する道しか無かったのですが、それを否定した大本営の命令がいかに鬼畜の行ないか今となっては誰もそう思うのでしょうが、その当時の高熱にうなされたような最前線では、悲惨な道を選ぶしかなかったのです。命令は絶対だったのです。

 一方、ダイヤモンドプリンセス号の中も、悲惨な状態が続いていました。このときの命令は、新型コロナの陽性が確認されたものは、上陸を許され、隔離病棟の設備のある病院に移送され、そこでの治療を受けることが出来ましたが、感染していないものは下船を許されなかったのです。船という隔離場所で、潜伏期間を経ても陰性が確認出来るまで、過ごさざるを得なかったのでした。このような船の中に、DMATという災害派遣医療チームが活躍していたのですが、彼らは大地震などの災害時に派遣され、被災地での医療支援を実施するチームでした。悲惨な被災者を助けたいといった志を持った医療関係者が志願するなどして構成されていました。

 あるとき、船の廊下で、イギリス人の高齢のご婦人が泣き崩れていたのを隊員が発見して、事情を聞いてみますと、夫婦で旅行中で、夫がコロナ要請で、治療する為に病院に移送されたそうです。その当時、高齢者の死亡率も高く、もしかしたら夫が遠く故郷から離れた異国の地で一人で苦しみ、死んでしまうかもしれないと悲嘆にくれていたのです。DMATの一人の隊員がその思いを汲んで、夫のもとにやりたいと、提案しましたが、政府から派遣された他のチームから、陽性が確認出来ていないものを下船させることは出来ない、命令違反だと反対されたのです。しかし、DMATのリーダーが部下の意を汲み、自分が責任をとるからと、このご婦人を夫のもとに送ることにしたのでした。

 もし、硫黄島の日本軍のリーダー達の中で、大本営の意図に気付き、自分の部下達が犬死を強制されていたと考えることが出来たら、降伏の道を選ぶことが出来たと思います。もちろん、現代と当時では取り巻く環境がかけ離れていましたので、当時の人達を責めることは出来ないかもしれませんが、亡くなった多くの方達の無念さを考えますと何とかならなかったのかと思わざるを得ません。

 この二つの話を聞いて、私が感じましたのは、人間が作る命令というものは絶対正しいとは限らない、だから、どんな事情があろうと絶対服従しなければならないというのは間違っていると言うことです。大体、命令というものは、現場で活動しているものが発するのではなく、現場の状態などあまり把握出来ていない遠く離れた安全な所にいる高位の人間が作るものです。だから、現場での判断によっては、命令を逸脱することが正しい判断であることもあるのだと思います。

投稿者

弱虫語り部

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