ロシアの戦勝記念日で、プーチン大統領が戦争宣言をするという予測は外れました。私は「86.国民の本音と力」で、もし今回の演説で戦争宣言をして、国民総動員令が出ると、今までウクライナへの侵略も、他人事のように、プーチン大統領の国を守る為の唯一の決断であったという言葉を信じ、プーチン支持であった多くのロシア国民の目を覚ますきっかけになるのではないかと思っていました。自分、家族、友人が戦争に招集されることになれば、他人事では済まされなくなり、事の重大さに気付くことになる筈と考えていました。そうなれば、反戦、反プーチンと言う意見を持つ人が増え、プーチン大統領への支持率が大きく下がり、プーチン政権の維持が困難になると期待していました。
さすがにこのような推測は、ロシア政権中枢にも理解されていたということでしょう。今回のプーチン大統領は、国民への気遣いを中心に言葉をつないでいたように思います。いくら強権発動をして、戦力を増大できたとしても、国民からの支持率が下がれば、政権維持できないということをよく理解していたということだったのでしょう。そういう意味でこの演説を聞いていますと、今回の軍事作戦の正当性を説くこと、その原因はウクライナの背後にある欧米諸国にあるということ、多くの犠牲を払いドイツ戦に勝利した祖先達への感謝、ウクライナで戦闘していて、死亡、負傷した兵への補償をきちんと実行することなど、かなり国民に歓迎される内容を坦々と述べていました。戦況が非常に悪いことから、もっと多くの戦力をウクライナに投入したいと言う本音を隠すことによって、作戦がうまく進行していないことに触れなくてよいこと、総動員令など国民の不安要素を出さないでおくことで、国民の支持を維持していくことを最優先したスピーチだったのです。このことは、ロシア国民が真実を理解する格好の機会を潰したプーチン大統領のしたたかな作戦だったと思います。しかし、戦況はロシアの思い通りに進んでいないことは間違いないので、いつまでも嘘を重ね続けることはできないとも思います。一刻も早く、ロシア国民がウクライナで何が起こっているかを知って欲しいと願います。